萬来喫茶とは一体なんなのか、しばしば人に説明しづらいと言われます。それは、私たちが萬来喫茶で実現しようとしていることが、多岐にわたり、またそのいくつかは、言語化が困難なものであるからです。

今後、カフェを運営していくなかで、コンセプトを言語化していく作業も同時に行なっていきますので、この「コンセプト」のページも随時更新していきます。この下に書かれているコンセプトはあくまで一時的な見解であることをご了承ください。

■ 日常的な場所と居場所

日常的な場所としての大学には、居心地のいい空間がありません。これは、よく言われることですが、「自分たち」にとっては大きな問題です(大学自体が学生運動等の歴史的背景もあって、こうした集まれる場所を意図的に少なくしているようです)。そこで、授業後の教室の中で集まったり、そこでお弁当を食べたり、集まる場所を学校の外に移したりして、居場所の確保に努力します。なぜ、居場所の確保ぐらいでこんな努力をしなければならないのか。コミュニケーションはもっと重要で、学校にそういう空間があるべきでないのか、このプロジェクトを始めるきっかけは、そうした個人的で日常的なものに対する不満でした。しかし、この問題は学校を出て、日常的な場所が変わっても、常につきまとう問題だろうということが容易に想像できます。解決策はやはり「ないならつくるしかない」ということでした。

■ 交流の場所として、発表や実験もできる便利な場所

萬来喫茶は、居心地のいい空間であり、交流の場所にしたいと考えています。多くの「カフェ」は交流の場所ではありますが、交流はグループ内に閉じられているものがほとんどではないでしょうか。萬来喫茶は、グループ内で話せる場としてだけでなく、話の合うひとを見つけられるサロン的な場所でもありたいと考えています。そのために、自分の得意なものを皆に発表できたり、自分の考えていることを実験できたりする、便利な場所として使える空間でもあります。

たとえば、10月には留学生ブラッドのビオラの演奏や、文学部の宍戸君のスポーツマッサージが萬来喫茶内で行われ、とても好評で、とてもいい雰囲気になりました。来場者からは「自分の写真を展示したい」、「花を活けたい」、「料理をつくりたい」といった希望が出ました。また、11月には、実際に活躍しているプロのアーティストが萬来喫茶に訪れます。萬来喫茶では、そうしたプロのアーティストとアマチュアとの線引きは空間内では行いません。

萬来喫茶は、何かが生まれるきっかけとなる場所であり、また生まれたものを発表できる場所になればいいと考えています。

■ 21世紀的生(活)の美学の探求の場として

慶應義塾大学の授業である「美学特殊C」(担当:熊倉敬聡)では、21世紀的生(活)の美学の探求というコンセプトを掲げています。今回、美学特殊Cによる実験の一つとして、脱資本主義的志向の新たな「交換システム」を考案し、萬来喫茶で実験することにしました。詳しくはこちらのページをご覧ください。

■ ノグチルームの開放

新萬来舎にあるノグチルームは普段鍵がかけられており、学生が自由に使える場所ではありません。場所もキャンパスの奥のほうにあるので、一般の学生はおろか、美術を学ぶ慶應生にとっても、この部屋の存在を知らないことが多い、新「萬来」舎という名前とは正反対の場所でした。当然、一般の人がノグチルームを見学する際は、大変面倒な手続きを行う必要があります。そこで我々は、このノグチルームを開放して、「萬来」な場所にしようと考えました。

このノグチルームのデザインは素晴らしく、部屋や庭園のデザイン、庭園に置かれた数々のイサムノグチの彫刻は、我々の目を楽しませてくれます。また、この部屋は、大きなテーブル一つに大きな座れる場所(椅子?)が一つと言う大胆なデザインになっています。実際に来ていただくとわかるのですが、グループ内で集まり、グループ内で話す、一般の「カフェ」の使い方には向いている部屋ではなく、目的意識がなくてもふらっと立ち寄り、近くの人とコミュニケーションをとりやすい、まさに我々が考えていた空間に非常に向いているデザインでした。

ノグチルームが入っている新萬来舎は、新大学院校舎建設のため既に取り壊されることが決定しています。ノグチルーム自体はその校舎に移設される予定ですが、この雰囲気を維持することは不可能でしょう。萬来喫茶イサムはノグチルームを「萬来」な場所にする最後の試みになるのかもしれません。

東京国際芸術祭(TIF) より

萬来喫茶は東京国際芸術祭(TIF)との共同プロデュースによるプロジェクトです。NPO法人アートネットワーク・ジャパンによって運営されているTIFは、良質の舞台芸術を幅広く紹介するとともに、国際共同制作や、若手アーティストの育成など、芸術と社会の橋渡しをすることをミッションとしています。

また、フェスティバルの中でも重要な位置を占める「コミュニケーション・プログラム」は、大学生を中心とした若い人々に舞台芸術に触れる機会を提供し、将来の観客育成や、若手アートマネージャーのゆるやかなネットワークをつくることを目的としています。「萬来喫茶イサム」は、コミュニケーション・プログラムと、大学の中に新たなコミュニケーションの場を創出しようとする「美学特殊C」のメンバーとの出会いから生まれました。

私たちは、この空間が、普段アートに全く出会う機会のない学生たちとアートが出会う場になれば、という願いを持っています。10月に、喫茶に来ていただいたお客さまによる楽器の演奏や「この場所でパフォーマンスをしたい」などという様々な申し出があったことを皮切りに、11月、12月には、TIFの参加アーティストをはじめ、多彩なプロフェッショナルのアーティストもご来店の予定です。

アーティストたちは、萬来喫茶に必ずや新しい風を吹き込み、ノグチルームに集う学生たちにアートの煌きを見せてくれることでしょう。 全くのアマチュアからプロのアーティストまで、さまざまなアートを包み込むこの空間で、普段、わざわざ切符を買ってアートを鑑賞しに出かけることのないみなさんも、すてきなアート、アーティストに出会っていただければと思います。

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